論文紹介

第3回論文紹介(2004.6更新)

グループ名
機能調節学 超分子システム学
著者
村越秀治,飯野亮太,小林剛,藤原敬宏,大島智香,吉村昭彦,楠見明弘
タイトル(英)
Single-molecule imaging analysis of Ras activation in living cells
タイトル(日)
生細胞内でのRas活性化の1分子可視化解析
発表された専門誌
PNAS 101, 7317-7322 (2004) [PubMed]

生きている細胞の中で、低分子量Gタンパク質Rasが活性化するのを1分子毎に捉える方法を開発した。実際には、YFP-Rasを発現した細胞に蛍光標識BodipyTRを結合させたGTPを顕微注入し、その細胞をEGFで活性化する。このとき、YFP-RasにBodipyTR-GTPが結合する瞬間を、1分子FRET法で検出した。

この結果、活性化される前のRasはリン脂質と同じような速い拡散運動をしているが、活性化したRasはシグナル複合体を形成し、膜骨格フェンスに囲い込まれる効果が大きくなって拡散運動が劇的に、しかし、一時的に減少することが見出された。すなわち、Rasの活性化にともなってシグナル分子複合体が形成されるが、1秒程度の寿命で分解してしまうことが分かった。

このように、シグナル伝達はパルス状に生起し、短寿命のシグナル分子複合体がこれを担うことが示唆された。各素過程がデジタル的に生起する方が(数分間の活性化という風にアナログ的に起こるよりも)、その細胞での分子全体の挙動の制御が容易であること、いつも分子はOFFにしておいて、一瞬だけONにする方が誤作動しても危険が少ないこと(Rasはoncogene産物)などの点で有利であることが考えられる。また、パルス状のシグナルは、細胞が環境の変化に次々と素早く対応するために、その間の運動停止は、局所的、あるいは極性をもつシグナルの誘起にとって重要かもしれない。

図1:

生細胞内1分子FRETの1例。1分子のYFP-H-Rasに0.6秒の時、1分子のBodipyTR-GTPが結合し、YFPの蛍光は暗くなり、BodipyTRの信号は強くなる。0.9秒のときBodipyTR-GTPがはずれたか、または退色したため、YFPの蛍光が明るくなり、BodipyTRの蛍光は暗くなる。このようにYFPとBodipyTRの蛍光強度が逆に相関していることは、YFPからBodipyTRへのFRETが起こっていることを示している。

図2:

A : EGF刺激前のH-Ras分子(左)、GTPが結合して活性化しFRETを起こしているH-Ras分子(右)の1秒間の運動の軌跡。数字は拡散係数(μm2/s)を示している。
細胞外刺激により活性型になると、信号分子の集合により大きな複合体を形成し、膜骨格にぶつかって、網目の内部に運動が制限される。


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