論文紹介

第11回論文紹介(2008.6更新)

グループ名
生体構築論講座 分子神経生物学
著者
久原 篤、奥村将年、木全翼、谷澤欣則、高野良、木村幸太郎、稲田仁、松本邦弘、森 郁恵
タイトル(英)
Temperature sensing by an olfactory neuron in a circuit controlling behavior of C. elegans.
タイトル(日)
温度走性の神経回路において、嗅覚ニューロンがGタンパク質を介して温度を感知する
発表された専門誌
Science 320, 803-807, 2008

「温度」は、地球上に生息する全ての生物にとって、最も重要な環境情報のひとつである。本研究では、線虫C.エレガンスにおいて、嗅覚ニューロンとして知られていたニューロンが温度を感知し、その温度感知に、ヒトの嗅覚や視覚と同様のGタンパク経路が必須であることを明らかにした。

C.エレガンスの温度走性変異体(nj8)の原因遺伝子を同定したところ、3量体Gタンパクαサブユニット(Gα)の負の制御因子であるRGS(EAT-16)の遺伝子であった(図A,B)。このRGS変異体の温度走性の異常は、嗅覚ニューロンとして知られていたAWCニューロンにRGS遺伝子を発現させることで正常に回復した(図B)。AWC嗅覚ニューロンが温度刺激に応答するかをCa2+イメージングにより検証したところ、AWCは温度変化に応答し(図C)、かつ、過去の飼育温度に応じて温度応答性を変化させることが明らかになった。つまり、AWC嗅覚ニューロンは温度を感知するだけでなく、温度記憶も行なっていることが示唆された。興味深いことに、AWCの温度応答性は、AWCの嗅覚情報伝達に関わるGαとcGMP依存性チャネルの変異体で顕著に低下していた(図C)。また、RGS変異体の温度走性行動の異常も、Gタンパク-cGMP経路の変異により抑圧された。これらの結果は、温度情報が3量体Gタンパクを介して伝達されることを示唆するだけでなく、AWC感覚ニューロンが温度と匂い物質という質的に異なる2つの情報を、共通のGタンパク経路により伝達することを示唆する。

図1:

(A) C. エレガンスは、一定の温度下で飼育された後に、温度勾配上に置かれると、飼育されていた温度に移動する温度走性を示す。
(B) Gタンパク抑制因子(RGS)の変異体は温度走性に異常をもつ。この異常は、AWC嗅覚ニューロンにRGS(EAT-16)の遺伝子を入れることで回復した。
(C) 野生株のAWC嗅覚ニューロンは温度刺激を与えると活発化した。


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