論文紹介

第11回論文紹介(2008.6更新)

グループ名
菅島臨海実験所 発生生化学
著者
原田淑人、高垣裕平、砂川昌彦、齋藤貴子、山田力志、谷口寿章、 将口栄一、澤田 均
タイトル(英)
Mechanism of self-sterility in a hermaphroditic chordate.
タイトル(日)
雌雄同体の脊索動物(カタユウレイボヤ)の自家不稔機構
発表された専門誌
Science 320: 548-550, 2008

雌雄同体の生物は自家不和合システム(SI)を利用して自家受精を回避している。原始的な脊索動物であるカタユウレイボヤはその代表例といえるが、その自家不稔の分子機構は解明されていない。著名な遺伝学者であるモルガンもカタユウレイボヤの自家不稔機構の研究を行なっていたが、その謎は解明には至らなかった。この論文では、卵を酸処理することにより自家受精させ、生まれる子供同士で交配実験を行い、自他認識様式を遺伝学的に探るとともに、マーカー遺伝子解析によるポジショナルクローニングにより、14本の染色体中の原因遺伝子の特定を行なった。その結果、自家不稔は2つのSI遺伝子座によって支配されていること、その両遺伝子座には、強固に連鎖したポリシスチン1様タンパク質(s-Themisと命名:Themisとは、正義と公正を司るギリシャ神話の女神で、近親相姦の禁止を提唱)とフィブリノーゲン様タンパク質(v-Themis)が存在することが判明し、いずれにおいても、v-Themisの遺伝子がs-Themisの遺伝子の第1イントロン内に逆向きでコードされていることが判明した。これらの遺伝子が雌雄のアロ(同種異個体)認識分子であると考えられる。高等植物の受粉時の自家不和合遺伝子においても、自己を認識し合う分子ペアが染色体上に近接していることが知られており、ホヤと高等植物の自家不和合機構は、その利用する分子こそ異なるものの、酷似した機構で制御されていることが、世界に先駆けて今回初めて明らかにされた。

図1:

カタユウレイボヤの自家不和合性システムの分子機構。
精子側の自他認識分子(s-Themis-Aとs-Themis-B)と卵黄膜上の自他認識分子(v-Themis-Aとv-Themis-B)の構造を(A)に示す。s-Themisはフィグリノーゲン様タンパク質、v-Themisはポリシスチン1様タンパク質で、多型に富む領域(HVR)を含む。第2染色体(s/v-Themis-A)と第7染色体(s/v-Themis-B)の2箇所にThemisのペアがあり、いずれもs-Themis遺伝子の第1イントロンにv-Themisが逆向きにコードされていた(B)。 遺伝学解析から、AとBには複数のアレルがあり、AとBの両ペアで、自己と認識された時のみ精子が卵を「自己」とみなし、受精できない仕組み(ダブルチェック機構)になっていることが示された。精子側と卵側の自他認識遺伝子が染色体上で近接し、自己分子を認識する機構は、被子植物の受粉時の自家不和合性機構と酷似している。動植物共通に見られる収束進化の例といえる。


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