論文紹介

第32回論文紹介(2018.10更新)

グループ名
植物生理学グループ・WPIトランスフォーマティブ生命分子研究所
著者

安藤 英伍、木下 俊則

タイトル(英)
Red light-induced phosphorylation of plasma membrane H+-ATPase in stomatal guard cells
タイトル(日)
気孔孔辺細胞における赤色光による細胞膜H+-ATPaseのリン酸化
発表された専門誌
Plant Physiology, in press (2018)

植物は表皮にある気孔の開き具合を制御して、大気とのガス交換を調節しています。気孔は赤色光や青色光によって開口することが知られ、青色光は青色光受容体フォトトロピンを介した細胞内シグナル伝達を介して細胞膜H+-ATPaseをリン酸化により活性化し、細胞自律的に気孔開口を駆動することが明らかにされています。一方、赤色光による気孔開口は光合成に依存していること以外、詳細は不明でした。本研究では、モデル植物のシロイヌナズナの葉を用いて、従来必要だった表皮組織の単離を行わずにH+-ATPaseのリン酸化を可視化する免疫組織化学法を確立し、赤色光もH+-ATPaseのリン酸化を誘導することを発見しました。さらに、孔辺細胞における主要なH+-ATPaseをコードする遺伝子AHA1が発現しない変異体の葉において赤色光による気孔開口が遅延することを示しました。加えて、赤色光によるH+-ATPaseのリン酸化と気孔開口が光合成阻害剤によって抑制されることを明らかにしました(図1)。従来、シロイヌナズナの単離表皮では、赤色光に対する応答が観察できなかったことから、今回の結果は、葉では赤色光が光合成依存的にH+-ATPaseのリン酸化を誘導して気孔開口を促進することを示していると考えられ(図2)、新しい免疫組織化学法は葉本来の光による気孔開口の制御機構の解明に役立つことが期待されます。

図1:赤色光による孔辺細胞の細胞膜H+-ATPaseのリン酸化と気孔開口

(A) 葉における孔辺細胞のH+-ATPaseのリン酸化の免疫組織化学的検出。葉へ赤色光のみを照射してもH+-ATPaseのリン酸化レベルが有意に高くなることが明らかになりました。
(B) 野生型植物と主要なH+-ATPaseをコードする遺伝子AHA1が発現しない変異体(AHA1 K.O.)の葉における赤色光による気孔開口の比較。変異体では光照射開始から45分間は気孔開度が野生型植物よりも有意に小さいことが示されました。
(C) 光合成阻害剤DCMUの影響。DCMU処理した葉では赤色光によるH+-ATPaseのリン酸化が抑制されました。スケールバー: 50 µm、矢頭: 孔辺細胞

図2:葉における孔辺細胞の細胞膜H+-ATPaseを介した気孔開口のモデル

本研究の結果から、葉では青色光受容体フォトトロピン(phot1、phot2)を介した細胞内シグナル伝達に加えて、赤色光が光合成依存的に孔辺細胞のH+-ATPaseのリン酸化を誘導し、気孔開口を促進していることが示唆されます。


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