論文紹介

第33回論文紹介(2019.6更新)

グループ名
生体膜機能グループ
著者

錦野 達郎、土方 敦司、宮ノ入 洋平、尾上 靖宏、小嶋 誠司、白井 剛、本間 道夫

タイトル(英)
Rotational direction of flagellar motor from the conformation of FliG middle domain in marine Vibrio.
タイトル(日)
海洋性ビブリオ菌べん毛モーター回転子FliGのmiddleドメインの構造変化による回転方向の制御
発表された専門誌
Scientific Reports (2018) 8:17793. doi: 10.1038/s41598-018-35902-6

海洋性ビブリオ菌のべん毛モーターは時計回り(clockwise, CW)と反時計回り(counterclockwise, CCW)の両方向に回転できるモーターで、そのトルクは膜内外の電気化学エネルギーを運動エネルギーに変化することで生じる。このエネルギー変換にはイオンチャネルとして働く「固定子」及び、自身が回転する「回転子」と呼ばれる2つのタンパク質複合体の適切な相互作用が必要である。回転子中のC-ringと呼ばれるリング状の構造体はFliG, FliM, FliNと呼ばれる3種類のタンパク質からできており、トルクの産生と回転方向の制御を担っている。我々は過去に、ビブリオ菌FliGの変異体で、CCWに回転方向が偏るG214S変異体、CWに回転方向が偏るG215A変異体を単離している。FliGはN末端側からFliGn, FliGm, FliGcの3つのドメインに分けることができ、G214S, G215A変異はFliGmとFliGcをつなるリンカー領域に落ちていた。本研究では回転方向制御におけるこれらの変異の影響を明らかにするために分子動力学シミュレーションと核磁気共鳴法による構造解析を行った。その結果、G214S, G215A変異は、変異によりFliGcのFliGmに対する立体配置が制限されることが示唆され、これにより回転方向がCWまたはCCWに偏ることが推測された。

図1:ビブリオ菌の極べん毛回転と運動方向制御

細胞表面から生えた繊維(べん毛)をスクリューのように回転させることで、泳ぐための推進力を生み出す。CCWで回転すれば、前進、CWで回転すれば後退する。べん毛の根元には回転モーター(べん毛モーター)が存在し、回転子と固定子の相互作用によって回転力が作られる。べん毛の回転方向は膜上の受容体からCheY(走化性シグナルの因子)へシグナルが伝達され、CheYが回転子に結合することで、モーターの回転方向が変化する。

図2:ビブリオ菌の極べん毛回転と運動方向制御

(A)回転子部分の電子顕微鏡解析で得られた立体構造に、FliF(一部), FliG, FliM, CheYの結晶構造で解かれている部位が当てはめられた。(B) (A)の点線で囲まれている1セットのFliG, FliM, CheY分子を記載した。青色、赤色、および黒色のボールは、G214、G215、E144残基をそれぞれ示す。灰色の矢印は、FliMに対するCheYの結合がFliGMに対する影響を示す。黒色の矢印は、分子内FliGの構造変化を示す。本モデルにおいて、FliMへのCheY結合はFliGMの構造変化を誘発する。この変化は、Gly-Glyフレキシブルリンカーによって感知され、FliGCの構造変化を誘起する。これらの構造変化が、回転子のFliG全体に伝達されることで、回転方向の切り替え(ギアチェンジ)が生じる。(C)前進と後退時のGly-Gly flexible linkerのとりうる構造。野生型及びE144D変異は4点に青のプロットがみられた。回転方向制御が偏るG214S変異及びG215A変異ではプロットが2点に集約されることから取りうる構造が減ってしまったと考えられる。


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