第35回論文紹介(2020.7更新)
- グループ名
- 分子神経生物学グループ
- 著者
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中野 俊詩、池田 宗樹、塚田 祐基、Fei Xianfeng, 鈴木 孝征、新野 祐介、Ahluwalia Rhea、佐野 文菜、近藤 留巳、井原 邦夫、宮脇 敦史、橋本 浩一、東山 哲也、森 郁恵
- タイトル(英)
- Presynatptic MAST kinase controls opposing postsynaptic responses to convey stimulus valence in Caenorhabditis elegans
- タイトル(日)
- シナプス前ニューロンで作用する線虫MASTキナーゼはシナプス後ニューロンの活動を双方的に制御して、感覚刺激の価値を表象する
- 発表された専門誌
- Proc. Natl. Acad. Sci. 21: 1638-1647 (2020)
線虫C. elegansは、温度刺激に対する「好き・嫌い」の嗜好性を、過去の経験や線虫を取り巻く環境に応じて変化させることが知られていました。線虫が温度刺激を受け取ると、AFD神経細胞と呼ばれる温度受容神経細胞が働くことが分かっていましたが、温度刺激に対する嗜好性、つまり「好き」か「嫌い」を決定する仕組みは謎でした。
我々は、AFD神経細胞から情報を受け取るAIY神経細胞に着目して、この神経細胞の活動を計測しました。すると、AFD神経細胞では、「好き」と「嫌い」にかかわらず、温度刺激に対して活動が活発になるのに対して、AIY神経細胞では「好き」な温度刺激に対しては活動が活発になり、「嫌い」な温度刺激に対しては活動が抑圧されることが分かりました。AFD神経細胞は神経ペプチドとグルタミン酸の2種類の神経伝達物質を使ってAIY神経細胞へと情報を伝達し、このうち神経ペプチドはAIY神経細胞の活動を興奮させ、グルタミン酸は抑圧させます。今回、AFD神経細胞が、刺激の「好き・嫌い」に応じて、これらの情報伝達物質の放出バランスを調節することで、AIY神経細胞の活動を制御していることが示唆されました。さらに、この情報伝達物質の放出バランスを決める因子として、MASTキナーゼをはじめとした遺伝子群が関与していることを明らかにし、この遺伝子群はヒトにまで進化的に保存されていることが分かりました。

今後の予定