論文紹介

第35回論文紹介(2020.7更新)

グループ名
分子神経生物学グループ
著者

松山 裕典、森 郁恵

タイトル(英)
Neural coding of thermal preferences in the nematode Caenorhabditis elegans
タイトル(日)
線虫 C. elegans における温度嗜好性の神経コーディング
発表された専門誌
eNeuro 6 April 2020, ENEURO.0414-19.2020

動物は絶えず変化する環境に囲まれながら、さまざまな経験をもとに感覚刺激の「好き嫌い(嗜好性)」を柔軟に更新し続けています。動物の神経系が刺激の嗜好性を切り替える仕組みを解明することは、「快感や恐怖」といった動物の感情が神経系でどのように表現されているかを理解するための重要な手がかりとなります。しかしながら、その詳細は未だ多くの謎に包まれています。本研究では、線虫C. elegansを用いて、過去の経験が感覚ニューロンと介在ニューロンの応答の相互作用を変容させ、刺激の好き嫌いを表現していることを明らかにしました。

線虫は、温度に対する嗜好性を過去の摂食経験によって切り替えることができます。一定温度で餌を十分に摂食した線虫は、温度勾配上で飼育温度に誘引されるようになりますが、同じ温度で飢餓を経験した線虫は、飼育温度帯を避けるような行動を示します。本研究では、温度感覚ニューロンAFD と介在ニューロン AIY のカルシウム応答を同時にモニターすることにより、過去の摂食経験がAFDとAIYの応答に時間差を生じさせていることを明らかにしました。過去の研究により、AIY応答の振幅や活動頻度を調節することによって、温度走性が制御されていることは知られていたものの、本研究は、温度に対する嗜好性がAFDとAIYの応答の時間差によってコードされているという新しいメカニズムを提案するものです。

図1:カルシウムイメージング実験の概略図

体を固定した線虫に温度刺激を与えながら温度感覚ニューロンAFDと介在ニューロンAIYのカルシウムイメージングを行った。AFDには赤色蛍光カルシウムセンサーR-CaMP2を発現させ、AIYには緑色蛍光カルシウムセンサーGCaMP3を発現させた。

図2:

過去の摂食経験によってAFD(平均値を赤で示した)とAIY(平均値を青で示した)の応答の相互作用が変化する。このような神経活動パターンの違いによって線虫の温度の好き嫌いが表現されていると考えられる。


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