論文紹介

第35回論文紹介(2020.7更新)

グループ名
分子神経生物学グループ
著者

Tzu-Ting Huang、松山 裕典、塚田 祐基, Aakanksha Singhvi, Ru-Ting Syu, Yun Lu, Shai Shaham, 森 郁恵、 Chun-Liang Pan

タイトル(英)
Age-dependent changes in response property and morphology of a thermosensory neuron and thermotaxis behavior in Caenorhabditis elegans
タイトル(日)
C.エレガンス温度受容神経細胞の応答性質と形態、そして温度走性行動における加齢依存的な変化
発表された専門誌
Aging Cell. 2020 May;19(5):e13146. doi: 10.1111/acel.13146. Epub 2020 Apr 19.

ヒトでは、加齢に伴って、アルツハイマー病やパーキンソン病の発症率が増加します。加齢による外界の認知や行動の劣化は、神経系における様々な不具合から生じると考えられていますが、その詳細は不明です。本研究では、通常の寿命が約3週間と短く、寿命研究に適する線虫C. elegansの温度感知感覚神経細胞AFDを用いて、加齢に伴う神経細胞の形態と機能の変化、及び温度応答行動を詳細に解析しました。加齢個体の神経細胞AFDは、温度を感じる神経末端の微絨毛が減少し、温度感知に必要な熱感受性グアニル酸シクラーゼの異常な凝集が起こっていることを発見しました。また、外界刺激に対する神経活動を解析するために、温度へのカルシウム応答性を調べてみると、加齢個体のAFD神経細胞は、若年個体よりも高温に対して敏感になり、温度刺激によって誘発される応答範囲が拡大していることを見出しました。AFDが駆動する温度走性行動では、加齢により、より低温を好む傾向が観察されますが、温度変化に対する応答行動自体は保持されていました。これらの結果は、加齢に伴う神経細胞の形態変化と刺激応答特性の変化の関係、また、それらの変化に伴う行動変化との関係には、明らかな相関性がないことを示します。本研究は、加齢に伴う神経細胞の構造変化と機能変化について解析する際は、様々な要素の特徴を定量的に同定し、統合的に解析することの重要性を示唆しています。

図:

Panel A: 線虫C. elegansは餌と条件づけされた温度へ走性行動を示す。この条件づけは新しい条件へ3時間程度で適応する可塑性を示す。

Panel B: 加齢個体は新しい条件づけ温度への可塑性を保持していることが分かったが、若い個体と比べて好冷性の嗜好を示した。

Panel C: C. elegansの温度受容神経細胞であるAFDは、加齢に従って感覚末端に特徴的な構造である微絨毛が膨らむことが観察された。

Panel D: 若い個体では条件づけされた温度に従って特定の狭い温度範囲で応答するのに対し、加齢個体ではAFD神経細胞は温度刺激に対して広い温度域で応答を示した。

Panel E: 加齢に依存したAFD感覚末端の構造変化と、温度刺激に依存したAFD神経活動の応答範囲に明らかな相関は見られなかった。


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