論文紹介

第35回論文紹介(2020.7更新)

グループ名
超分子構造学グループ
著者

藤原 悟、河野 史明、松尾 龍人、杉本 泰伸、松本 友治、成田 哲博、柴田 薫

タイトル(英)
Dynamic Properties of Human α-Synuclein Related to Propensity to Amyloid Fibril Formation
タイトル(日)
アミロイド線維形成傾向に関連したヒトα-シヌクレインの動的性質
発表された専門誌
Journal of Molecular Biology 431(17), 3229-3245 (2019)

天然変性タンパク質であるα-シヌクレイン(αSyn) のアミロイド線維形成はパーキンソン病をはじめとするシヌクレイノパチーの発症に関係すると考えられ、αSynのアミロイド線維形成メカニズムには強い関心が寄せられています。天然変性タンパク質は元々その柔軟な構造が機能に繋がるものですので、αSynの線維形成にはその動的特性の変化が関与すると予想されます。αSynの線維形成は溶液条件に左右されやすく、アミロイド線維の出来やすさが異なる様々な条件下において動的特性を調べることにより、線維形成メカニズムに対する有用な情報が得られるものと期待されます。

本論文では、中性子準弾性散乱やX線小角散乱、動的光散乱、電子顕微鏡の手法を駆使し、成熟した線維が形成されるpH7.4生理的塩濃度、短い線維の凝集塊ができるpH4.0、そして、不完全な線維しか形成されないpH7.4のそれぞれの条件下において、αSynの動的特性ならびに構造特性について調べました。その結果、pH7.4高塩濃度下では伸びた構造となるところpH4.0や7.4ではコンパクトな構造となることや、pH7.4と比べ、pH4.0では局所的な側鎖の動きだけが促進される一方で、pH7.4生理的塩濃度では分子内セグメント間の動きと局所的な動きとの両方が促進されることが示されました。これらの結果はαSynのアミロイド線維形成にはタンパク質同士が集合しやすくなるようなセグメント間の動きが必要なことを示しています。

図1:溶液の違いによるα-シヌクレインのアミロイド線維のできやすさの違い

(A) 異なる溶液条件下でのαSynの凝集をチオフラビン蛍光強度にて追跡した。(B) 充分な時間をかけて終状態に達した後のαSyn凝集体の状況を電子顕微鏡にて確認した。

図2:さまざまな溶液中でのα-シヌクレインの動き方の違い

(A) 異なる溶液条件下でのαSynの動きをX線小角散乱(SAXS)、動的光散乱(DLS)、準弾性中性子散乱(QENS)で測定した結果の比較。密度マップはSAXSの結果に合わせて生成された100個以上の分子モデルの平均構造を示したもので、酸性(緑)や中性(赤)ではコンパクトな構造なのに比べ、中性で塩が加わった場合(青)にはペプチド鎖全体にわたるセグメント間の動きが大きくなり平均としては伸びた構造となる。QENSの結果には分子全体の動きと局所構造の運動の両方の寄与が含まれるが、分子全体の動きの寄与をSAXSの結果等も参照しつつ推定し差し引くことで、局所構造の運動に関する情報を引き出せる新しいデータ解析法を採用した。(B)さまざまな溶液条件下でのアミロイド線維のできやすさの違いを実験結果に基づいて説明するモデル。


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