論文紹介
研究代表者 |
松林嘉克 |
所 属 |
名古屋大学大学院生命農学研究科 |
著 者 |
Ohyama, K., Ogawa, M., Matsubayashi, Y.
(大山健太郎、小川真理、松林嘉克) |
論文題目 |
Identification of a biologically active, small, secreted peptide in Arabidopsis by in silico gene screening, followed by LC-MS-based structure analysis.
(In silico遺伝子スクリーニングとLC-MS解析を用いたシロイヌナズナにおける分泌型短鎖生理活性ペプチドの同定) |
発表誌 |
Plant J. 55, 152-160 (2008) |
要 旨 |
植物でこれまでに知られている分泌型ペプチドホルモンには、構造的に大きく分けて2種類のタイプがある。PSKやPSY1、CLEなどのように、前駆体ペプチドがプロセシングにより限定分解を受け、20アミノ鎖以下の短鎖ペプチドとなって分泌されるグループと、限定分解を受けずそのまま分泌されるグループである。本論文では、ゲノム上に数多くコードされている分泌型ペプチドの中から、構造的特徴(システイン残基の数やC末端付近に存在する保存配列の有無)を指標としてプロセシング依存型のペプチドホルモン候補を探索することを試みた。TAIR7に公開されている31,835 ORFsについてin silicoスクリーニングを行なった結果、C末端付近に保存配列を持つ新しいペプチドファミリーを見出し、それらの成熟型ペプチドが保存配列領域に由来する15アミノ酸ペプチドであることを明らかにした。CEP1(C-terminally encoded peptide 1)と命名したこのペプチドを植物体に投与もしくは過剰発現すると、根端メリステム領域における細胞分裂活性が低下し、根の成長が著しく抑制された。CEP1遺伝子は、根の側根原基でのみ発現しており、そのホモログも根でのみ発現が確認されていることを考慮すると、根形成に何らかの形で関与する新しいペプチドホルモンである可能性が高い。
図1 高等植物における分泌型ペプチドホルモンの構造的特徴 これまでに知られている分泌型ペプチドホルモンには、前駆体ポリペプチドからプロセシングにより一部の配列が切り出されるもの(プロセシング依存型)と、全長が分泌されるもの(プロセシング非依存型)とがある。プロセシング依存型では、一部のアミノ酸が翻訳後修飾を受け、さらにプロセシング酵素により限定分解されて、特定の領域のみが細胞外へ分泌される。プロセシング非依存型では、偶数個存在するCys残基が分子内ジスルフィド結合を形成した後、そのまま細胞外へ分泌される。 |
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図1 CEP1ペプチドの生理活性と発現部位
In silicoスクリーニングにより同定されたCEP1は、プロセシング依存型の15アミノ酸ペプチドである。(a)CEP1ファミリーの前駆体構造と成熟型ペプチド構造。CEP1成熟型ペプチドは前駆体ポリペプチドの保存配列領域に由来する。(b)CEP1遺伝子を過剰発現すると根の成長が顕著に抑制される(播種後18日目)。(c)CEP1遺伝子は、根の側根原基でのみ発現している。 |
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研究室HP |
http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~bioact/index.html |
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