論文紹介

研究代表者 塚谷 裕一 所 属 東京大学大学院理学系研究科及び
基礎生物学研究所
著 者 Kensuke Kawade, Gorou Horiguchi, Hirokazu Tsukaya
( 川出健介、堀口吾朗、塚谷 裕一)
論文題目 Non-cell-autonomously coordinated organ-size regulation in leaf development
(葉の大きさは細胞間シグナリングを介して協調的に制御される)
発表誌 Development 137, 4221-4227 (2010) doi:10.1242/dev.057117
要 旨   植物の葉は、一般に各種に固有の形と大きさを持ちます。その背景となるものは細胞の数やサイズですが、これを変えて葉のバイオマスを制御しようとしても、期待したような効果を得られないことが多くありました。事実、葉の原基の発達時に、細胞増殖があるレベル以下に落ちると、個々の細胞が後に異常に大きくなるという現象(補償作用)があります。これは、器官のサイズ制御というものを、細胞レベルで考えてはいけないということを意味しています。つまり細胞の増殖と肥大とは、器官レベルで統合的されている可能性が推察されてきました。しかしながら、そのことを直接的に示す知見は未だありませんでした。
 今回、私たちは、モデル植物のシロイヌナズナを用いて、細胞増殖に欠陥があり補償作用を示すan3変異型の細胞と、正常な細胞とが混在するキメラ葉(図)を人工的につくり出し、細胞のサイズがどうなるかを調べました。その結果キメラ葉では、変異型の細胞と混在する細胞は、その遺伝子型にかかわらず、同様に補償作用を起こして異常肥大することを見いだしました。これは、変異型の細胞から細胞肥大を促進させる細胞間シグナルが出されていることを示しています。今回の発見は、器官のサイズがどのようにして決まるかについての、全く新しい手 がかりを与えるもので、また応用的にも、この細胞間シグナリングの特性を利用することで、バイオマスの増大などへの寄与が期待されます。
図1
図 キメラ状にAN3を発現したan3変異体の葉。緑の部分が AN3を発現している細胞。
研究室HP http://www.nibb.ac.jp/%7Ebioenv2/indexj.html
http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/bionev2/top_j.html