論文紹介

研究代表者

杉山 宗隆

所 属

東京大学大学院理学系研究科附属植物園

著 者

Ohbayashi, I., Konishi, M., Ebine, K., Sugiyama, M.
(大林祝、小西美稲子、海老根一生、杉山宗隆)

論文題目

Genetic identification of Arabidopsis RID2 as an essential factor involved in pre-rRNA processing.
(プレrRNAプロセッシングに関与するシロイヌナズナの必須因子RID2の遺伝学的同定)

発表誌

The Plant Journal 67, 49-60 (2011)

要 旨  シロイヌナズナの温度感受性突然変異体rid2-1は、カルス形成が特異な異常を示す点に特徴がある。細胞分裂の再活性化の必要条件を探るため、この変異体の解析と責任遺伝子RID2の単離を行った。rid2-1の芽生えの表現型と組織培養応答の解析により、この変異は細胞増殖に広く影響するものの、その程度は増殖の局面ごとに大きく異なることが示された。こうした結果から、RID2の機能は、細胞周期の進行そのものではなく、細胞増殖を支えるようなバイタリティーの補充に関わると考えられた。rid2-1変異体ではまた、核小体キャビティーの拡大や著量のプレrRNAプロセッシング中間体の蓄積が認められた。さらに染色体上の位置に基づいて、RID2遺伝子の単離・同定を行った結果、メチル基転移酵素と思われるタンパク質をコードしていることがわかった。このタンパク質は核局在性で、とくに核小体に集積していた。これらよりRID2は、核小体におけるプレrRNAプロセッシングに、何らかのメチル化反応を通して関与していると推定された。
図1 細胞および細胞内構造に対するrid2変異の影響
(a)野生型(WT)とrid2-1変異体の胚軸断片をカルス誘導培地に置いて22℃または28℃で5日間培養した後、外植片を処理して微分干渉顕微鏡で観察した。通常は中心柱から形成されつつあるカルス(sc)が観察されるところ、28℃で培養した変異体外植片の中心柱では、歪に膨らんだ細胞(ss)が見られた。
(b)蛍光標識タンパク質のNHP2:GFPを核小体マーカーに用い、核小体に対するrid2変異の影響を調べた。カルス誘導培地に置いて22℃または28℃で5日間培養した胚軸外植片の中心柱部分を観察したところ、28℃で培養したrid2-1変異体外植片では、蛍光シグナルの領域が著しく大きくなっており、核小体が拡大していることが示された。
(c)rid2-1変異体の胚軸外植片をカルス誘導培地に置いて28℃で5日間培養し、切片を作製して、DAPIおよびSYTO RNASelectでDNA(青色)とRNA(緑色)の二重染色を行った。核小体(No)内部に大きなキャビティー(Nc)が生じていることがわかる。
(d)22℃で12日間育てた後28℃に移して4日置いた野生型およびrid2-1変異体の芽生えと、22℃で16日間育てた芽生えとで、根の細胞の核小体を比較した。変異体では、制限温度の28℃に4日間曝露することで、核小体が大きくなった。 スケールバーは50 µm(a〜c)または20 µm(d)。
図2 プレrRNAプロセッシングに対するrid2変異の影響
(a)出芽酵母におけるプレrRNAプロセッシングの経路。植物でも同様の経路でプレrRNAのプロセッシングが進むと考えられている。図中の1〜5は5.8S rRNAおよびその前駆体(プロセッシング中間体)のRT-PCR解析のために設計したプライマーを示し、a〜cは各種プロセッシング中間体のRNAゲルブロット解析のために用いたプローブを示す。
(b)野生型(WT)およびrid2-1変異体の胚軸断片をカルス誘導培地に置き、22℃または28℃で2日間培養した後、RT-PCR解析に供した。変異体が多量の5.8S rRNA前駆体を蓄積していることが判明した。
(c)22℃で12日間育てた後28℃に移して4日置いた野生型およびrid2-1変異体の芽生えと、22℃で16日間育てた芽生えを材料に用いて、プレrRNAプロセッシング中間体の蓄積量をRNAゲルブロット解析により調べた。変異体では、すべての種類のプロセッシング中間体が増大していた。

研究室HP http://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/koishikawa/research/sugi-lab/sugi-1.html