種子植物の体は、根・茎・葉の3種類の器官から構成されている。しかし、子葉をはじめとする葉のアイデンティティーが確立されるメカニズムはこれまで詳しく分かっていなかった。
今回私達は、子葉の形成にANGUSTIFOLIA3(AN3)とHANABA TARANU(HAN)の二つの因子の働きが必須であり、この二つの因子の機能が欠損したan3 han二重変異体では、子葉の形成されるべき領域に、異所的な根や、葉と根の中間的な性質を持つ突起が形成されることを明らかにした(図1)。AN3のホモログGRF-INTERACTING FACTOR2 (GIF2) をさらに機能欠損させたan3 gif2 han三重変異体では、子葉がほぼ完全に根に転換した(図1)。異所的な根の形成原因を明らかにするため、根の形成のマスター遺伝子であるPLETHORA1 (PLT1)の発現を解析した結果、an3 han胚では、PLT1の発現領域が、本来発現しないはずの頂端部にまで拡大していることが判明した(図2)。an3 han plt1三重変異体では、異所的な根の表現型が完全に回復した(図2)。
以上のことから、子葉のアイデンティティーの確立には、AN3とHANによるPLT1の発現制御が必要であることが判明した。子葉形成のために根の形成プログラムを抑制する必要があることは、今回の研究により初めて示されたといえる。
図1.an3 hanとan3 gif2 han変異体の芽生えでは、地上部から異所的に根が形成される。
(A) 野生型 (左) とan3 han変異体 (右) の芽生え。播種後5日目。矢尻:異所的に形成された根を指す。
gif2 (B) とan3 gif2 han変異体 (C) の芽生え。播種後4日目。
スケールバー:1 mm
図2.an3 han変異体に異所的な根が形成される原因は、PLT1の異所的な発現による。
(A-B) 野生型 (A) とan3 han (B) の球状胚におけるPLT1の発現。
(C-D) an3 han (C) で見られる異所的な根の形成は、an3 han plt1変異体 (D) では起きない。播種後4日目。
スケールバー:AとBは50 μm、CとDは1 mm |