種子発芽の段階で、貯蔵脂質に由来するショ糖生合成には、β-酸化(β-oxidation)及びグリオキシル酸回路(Glyoxylate
cycle)と糖新生(Gluconeogenesis)という一連の反応が必要です(図1)。私達は、独自に単離したピロリン酸(PPi)分解酵素の機能欠損型であるfugu5
変異体を詳細に調べた結果、先に、種子発芽時に過剰蓄積するPPiによる貯蔵脂質に由来するショ糖生合成の阻害が、fugu5
における細胞増殖の阻害の主要因であることを明らかにしました(Ferjani et al., Plant Cell
2011)。今回それを踏まえ私たちは、PPiの除去機能を失ったfugu5 変異体の後期発生に注目しました。その結果、野生型に比べてfugu5
変異体の成長が不安定であること(図2);葉の縦と横の長さ、葉の面積等がともに野生型よりも小さくなっていることが確認されました。さらにこのような発生異常は、パン酵母のPPi分解酵素であるIPP1
遺伝子をはたらかせることで、完全に回復することが分かりました(図2)。これは、発芽時の成長の遅れが、植物の後期発全体に悪影響を与えることを示しています。現在、更なる解析によって、PPiによるショ糖生合成の阻害のメカニズムを明らかにすることを目指しています。
図1.発芽時に貯蔵脂質から糖新生に到るまでの代謝経路の模式図。
種子発芽の段階で、貯蔵脂質に由来するショ糖生合成には、β-酸化及びグリオキシル酸回路と糖新生という一連の反応が必要です。様々な代謝反応(DNA、RNA、セルロース、ショ糖やタンパク合成、脂質のβ-酸化等)によるATPの利用からは、副物としてPPiが生産されます。
図2.野生型(左上)、fugu5-1変異体(右上)、パン酵母のPPi分解酵素を導入したfugu5-1
変異株(下段左右)。播種後28日目の植物の写真です。正常な成長を示す野生型(左上)に対して、fugu5-1
変異体の成長は不安定で、成長不良や枯死個体が見られます(右上)。図中の1〜4の数字は成長の評価の目安となる個体を示しています。酵母のPPi分解酵素を導入した株では、この成長不良が完全に回復します(下段左右)。
|