プトレシン,スペルミジン,スペルミンなどを代表とするポリアミンは,多くの生物に検出される低分子塩基性化合物で,多様な機
能を持つ。サーモスペルミンはスペルミンの構造異性体であり,サーモスペルミン合成酵素ACL5によって,スペルミジンから合成される。近年のゲノム解析によると,サーモスペルミン合成酵素は
動物には存在しない一方,一部の細菌と植物界には広く分布していることが示唆されている。シロイヌナズナのACL5遺伝子は,前形成
層から木部組織が分化する過程で特異的に発現し,その機能欠損変異体は,道管要素の過剰な分化と著しい矮性を示すことから, サーモスペルミンは道管分化の抑制に働くと考えられる。acl5変異体の矮性表現
型がサーモスペルミンなしでも回復するサプレッサー変異体が単離され,その解析から,サーモスペルミンはupstream ORF
(uORF)と呼ばれる短いペプチドコード領域を持つ特定の転写 因子mRNAの翻訳促進に作用することがわかってきた。本総説では,サーモスペルミン合成酵素遺伝子の起源か
ら,サーモスペルミンの合成と代謝経路,推定される分子レベルの作用機構に関する最新の知見を紹介するとともに,サーモスペ ルミンが植物の新たな成長調節因子であることを提唱している。
図1.シロイヌナズナのサーモスペルミン合成酵素欠損変異体acl5の表現型。
A) 野生型(左)とacl5変異体(右)の植物 B) 野生型の茎の横断面(リグニン染色) C)acl5変異体の茎の横断面(リグニン染色)
図2.サーモスペルミンとスペルミンの構造(上)とacl5変異体に対する外的添加処理の効果。
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