研究室・教員

研究室紹介

生体システム論講座 Laboratory of Biological Systems
細胞生物学グループ Group of Cell Biology

講師
平子 善章細胞ー基質間接着と組織構築
講師
瀧口 金吾生体膜の動態の分子制御機構
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English

上皮-基底膜間を結ぶ接着タンパク質複合体の形成と解体の分子機構

生命が誕生してから現在に至るまでには、いくつかの進化上のジャンプがありました。その中でも重要なものとして、「真核細胞の誕生」と「真核生物の多細胞化」があげられます。原核細胞から真核細胞への進化では、各種の機能に特化した細胞内構造が誕生しました。続く真核生物の多細胞化では、細胞そのものが機能特化(分化)し、これら分化した細胞が集合して組織を作り、さらに様々なタイプの組織が組み合わさって、より大型で複雑な多細胞生命体が生まれました。この多細胞化に必須だったのが、個々の細胞同士を結び付ける細胞接着機能の獲得でした。このような細胞接着にはおおまかにいって二種類あります。一つは細胞と細胞を直接結び付ける細胞・細胞間接着、もう一つは細胞を細胞外の基質(コラーゲンやラミニンなど)に結び付ける細胞・基質間接着です。細胞が基質に強く接着するときには特別の“足(接着装置)”を形成し、これを介して基質から情報を得、同時に基質に情報を発信しています。このような細胞・基質間接着装置の代表的なものにヘミデスモソームがあります。ヘミデスモソームは細胞質側で細胞骨格と結合し、細胞外部では線維状のタンパク質をのばして基底膜とよばれる特殊な細胞外基質構造に結びついています。基底膜は、上皮と間充織などの異なる組織が接するとき、その境界に形成される厚さ50-100nm程の細胞外基質タンパク質からなるシート状の構造で、組織を区分けすると同時に細胞の接着の足場となり、細胞の増殖や分化に重要な機能を果たしています。例えば、表皮基底細胞は基底膜から離れると角質化へと分化を開始します。また、ガン細胞の転移では、基底膜への浸潤・破壊の重要性が指摘されています。したがって細胞が基底膜とどのような機構で接着し、影響を受けているのかを知ることは、細胞の分化や癌化、組織構築等の解明にきわめて重要であると考えられます。細胞生物学グループでは細胞・基質間の接着装置であるヘミデスモソームとヘミデスモソームが結合している基底膜を中心として細胞接着の研究を精力的に進めています。

図1は、培養表皮細胞(a)が自ら分泌している基底膜構成成分のラミニン5(b)とヘミデスモソームを構成する膜貫通型タンパク質XVII型コラーゲン(c)の局在を蛍光抗体染色法によって可視化したものです。細胞がラミニン5からなる細胞外構造を形成し、それとよく一致するかたちでXVII型コラーゲン(ヘミデスモソーム)を配置しているのがわかります。このXVII型コラーゲン分子を精製単離して電子顕微鏡下で観察したのが図2です。

このタンパク質、なんだか釘のように見えませんか?実際にこの分子の球状の頭部は細胞質側に存在して細胞骨格につながり、それ以外のひも状の部分は細胞の外にあって、基底膜と結びついているのです。このように、私たちは分子、細胞レベルでヘミデスモソームを介した接着のしくみを明らかにしていくとともに、組織の分化や再生に果たす細胞・基質間接着の役割を解明するために、表皮角化細胞の三次元培養系を用いての解析も進めています。

細胞膜の動態の分子制御機構の解明

リポソーム(人工膜小胞)は生体膜の最も単純化したモデルで、細胞の形態形成や細胞運動の仕組みを再構成アプローチから紐解こうとする研究でよく用いられています。このリポソームの水溶液中におけるダイナミクスを、光学顕微鏡を使い直接リアルタイムで観察することによって、生体膜の動態を制御している分子機構の解明を目指しています。

リポソームにアクチンを始めとする様々な細胞骨格系蛋白質、分子モーター、あるいは膜作用性ペプチド、界面活性剤を作用させたときに引き起こされる現象を観察し、その動的機構を解析していきます。図3は、それら研究成果の1例で、F-BAR ドメイン蛋白質ファミリーによる膜突起形成過程を示したものです。エンドサイトーシスやエクソサイトーシス、細胞内での膜小胞輸送などは、何れもチューブ状に膜を変形させることが重要ですが、F-BAR ドメイン蛋白質ファミリーに属する蛋白質がそれらの変形に関わっています。写真は、暗視野顕微鏡でリアルタイム観察された蛋白質による膜の変形の様子です。これによって、同じファミリーに属する蛋白質でも、変形過程が異なることが初めて明らかにされました。

近年は、アクチン線維によるネマティック液晶形成や液液相分離系内における脂質膜の形成やアクチンの動態の解析と言った、脂質膜や細胞骨格の天然のソフトマターとしての側面に着目した研究も進めています。図4は、内部に封入されたアクチン線維のネマティック液晶形成によって紡錘形に変形したリポソームと、蛍光修飾されたアクチン線維への強い励起光照射による切断と照射終了後に自然に起きる線維再連結の可逆的な反応を利用することで誘導に成功した紡錘形リポソームの繰り返し変形の様子です。

図1

  
図2

図3

図4

References

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