第10回論文紹介(2007.10更新)
- グループ名
- 情報機構学講座 遺伝子発現制御学
- 著者
- 原島小夜子、黒羽一誠、立松律弥子、稲田利文
- タイトル(英)
- Translation of poly(A) tail plays crucial roles in nonstop mRNA surveillance via translation repression and protein destabilization by proteasome in yeast.
- タイトル(日)
- ポリ(A)鎖の翻訳は、翻訳抑制と翻訳に共役したプロテアソームによるタンパク質の不安定化を介してnonstop mRNAの品質管理機構に必須な役割を果たす
- 発表された専門誌
- Genes Dev 21:519-524, 2007.
遺伝情報発現の正確性を保証する為に、細胞はmRNAの品質を厳密に監視して不良品を速やかに除去する機構を保持している。未成熟終止コドン(ナンセンス変異)を保持するmRNAは、ヒトから酵母まで普遍的に存在する分解系(NMD)により分解される。また、終止コドンを含まないmRNAを分解する系が最近真核生物において発見され、NSD(nonstop-mediated decay)と名付けられた。我々は、ノンストップmRNAの翻訳と分解について詳細な解析を行い、1)ノンストップmRNAの翻訳開始以降の段階での抑制と、2)5'→3'方向のmRNA分解の促進を見いだし、mRNA品質管理機構における新たなmRNA分解系と翻訳抑制を明らかにしてきた。今回我々は、ノンストップmRNA由来の遺伝子産物の発現抑制機構を詳細に解析した。その結果、正常なmRNAでは翻訳されないポリ(A)鎖が翻訳されることで、ポリ(A)鎖の翻訳産物であるポリリジンによる翻訳伸長アレストと、それに共役したプロテアソームによる異常タンパク質の分解という多段階での発現抑制機構が働くことが明らかになった(下図)。この結果は、ポリ(A)鎖の翻訳自体が、多段階での発現抑制機構を作動させ、品質管理機構において必須な役割を果たすことを初めて明確に示したものであり、真核生物のmRNAの最も普遍的な修飾であるポリ(A)鎖の新しい役割が明らかになった。現在(1)ポリリジンによる翻訳アレストと、(2)プロテアソームによる翻訳に共役した異常タンパク質分解の分子機構について解析中である。
図1:
ノンストップmRNA品質管理機構におけるポリ(A)鎖の新たな役割

今後の予定