第10回論文紹介(2007.10更新)
- グループ名
- 形態統御学講座 植物発生学
- 著者
- 田中博和、渡邊勝、笹部美知子、廣江知紀、田中俊洋、塚谷裕一、池崎仁弥、 町田千代子、町田泰則
- タイトル(英)
- Novel receptor-like kinase ALE2 controls shoot development by specifying epidermis in Arabidopsis.
- タイトル(日)
- シロイヌナズナの新奇受容体様プロテイン・キナーゼ ALE2 は表皮細胞分化とシュートの発生を制御している
- 発表された専門誌
- Development 2007 Vol. 134: 1643-1652
表皮細胞は、動物と植物において、水分の保持や外界からの個体の保護だけでなく、多くの器官の発生にとって重要な役割を演じている。植物では、表皮細胞層のほとんどが欠失する変異体では、器官分化が起こらないことが知られている。シロイヌナズナでは、ズブチリシン様プロテアーゼ(インシュリンを切断し活性化するフリンなどもこの種類のプロテアーゼ)であるALE1 と受容体様キナーゼである ACR4 が、表皮細胞の表層の分化にとって必要であることがわかっている。今回、我々は、表皮細胞の表層に様々な欠損を生じる変異体として abnormal leaf2 (ale2) 変異を同定し、その原因遺伝子を特定した。ALE2 遺伝子は新奇な受容体様キナーゼをコードしていると推察された。また、ale1 ale2 や ale1 acr4 二重変異体では、胚の表皮細胞層分化に必要な種々の遺伝子(PDF1,FDH, ML1) の転写レベルが著しく低下していた(図 1、パネル D, F, H, J, L)。さらに、レベルが低下している領域では、表皮細胞層の形成不全と子葉の発生が抑制されていた。この結果は、ALE2, ALE1, ACR4 が表皮細胞層分化と子葉の発生に必要であることを示している。これらの変異に関する遺伝学的上位性検定を行ったところ、図2に示すように、ALE2 と ACR4 は同一経路で、ALE1 と ALE2 は異なる経路で機能している可能性が示唆された。
図1:
ハート型胚における表皮細胞特異的遺伝子の発現と胚の形
A (Ler), E (Ler) , G (Ler), I (Ws) は野生型胚の切片。それぞれのパネルには、変異体の種類を記載した。PDF1, FDH, ML1 は表皮細胞特異的遺伝子で、胚の表皮が 黒、紺色に染まっている部分は、mRNA の存在を示す。二重変異体ではmRNA のシグナルが検出されない部分がある。また、子葉の発生が不完全である。
図2:
胚におけるALE1, ALE2, ACR4 による表皮細胞特異的遺伝子の発現制御モデル
胚の表皮細胞分化は、その周辺の胚乳からのペプチド性のシグナルにより制御されている。

今後の予定