論文紹介

第10回論文紹介(2007.10更新)

グループ名
形態統御学講座 植物発生学
著者
上野宜久、石川貴章、渡辺恵郎、寺倉伸治、岩川秀和、岡田清孝、町田千代子、 町田泰則
タイトル(英)
Histone deacetylases and ASYMMETRIC LEAVES2 are involved in the establishment of polarity in leaves of Arabidopsis.
タイトル(日)
ヒストン脱アセチル化酵素とASYMMETRIC LEAVES2 タンパク質はシロイヌナズナの葉の極性の確立に関与する
発表された専門誌
The Plant Cell 19 (2), 445-457. (2007)

受精卵という一つの細胞から植物体ができあがるためには、適切な場所と時間に細胞の分裂や分化が行われるような遺伝的な制御が必要である。なかでも特 定の方向(軸)に沿った場所の情報とそれに従った細胞の分裂や分化を、極性と呼ぶ。植物の主要器官である葉の形成においても例外ではなく、極性の確立は必須である。この論文では、葉の極性の確立において、私たちが以前に発見していたASYMMETRIC LEAVES2 (AS2)という新奇タンパク質と共に関わる新しい因子を発見したことを報告する。今回見いだした因子は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)と呼ばれるもので、染色体に書き込まれた遺伝情報の引き出し方を調節するような酵素と考えられる。引き出された遺伝情報は、実際にタンパク質として機能するまでに様々なレベルで調節される。最近発見されたマイクロRNAはこのような調節に関わる。AS2 とHDAC はマイクロRNA をさらに制御する上位因子であった。HDACの関与を遺伝学的に証明するために、 RNAi ライブラリー法(名古屋大学から特許申請中)を独自に開発し、HDACをコードする遺伝子を同定することにも成功した。この研究から、1枚の葉ができあがるまでに必要な複雑かつ精緻な制御システムの一部が明らかになった。

図1:

(A) AS2 と今回見いだしたHDAC であるHDT1/2 が機能する場所のイメージ図。
胚におけるALE1, ALE2, ACR4 による表皮細胞特異的遺伝子の発現制御モデル
胚の表皮細胞分化は、その周辺の胚乳からのペプチド性のシグナルにより制御されている。(右上、左上)発育中のシロイヌナズナ。(左下)茎頂部の拡大縦断面の模式図。メリステムは幹細胞組織であり、葉原基はメリステムから生み出される。(右下)AS2 およびHDT1/2 タンパク質の存在部位。これらは葉原基内の細胞の核内で機能すると考えられる。点線は核を示す。緑は核小体または仁と呼ばれる核内の構造体を示す。ここにHDT1/2 が存在する。赤はAS2 タ ンパク質の存在部位。濃厚に着色されたドット状の部位は、最近AS2 body と命名した新規な構造体。この中にAS2タンパク質が豊富に存在する。
(B) 茎頂部と葉の拡大横断面の模式図と葉ができるメカニズムのイメージ。
葉原基はメリステムに近い側の約半分が将来の葉の表側(向軸側:水色領域)に なるという運命決定が下される。このイベントは横方向(灰色矢印)への伸展に必須である。点線部でメリステムと葉原基を遮断すると、この運命決定がなされず(向背軸極性が確立できない!)、裏側(背軸側:桃色領域)ばかりの性質をもった棒状の葉になる。AS2とHDT1/2 の機能が損なわれると、 同様のことがおこることがわかった。
(C) AS2 とHDT1/2 の働き方。
これらはマイクロRNA (miR165/166)の蓄積を抑制する。miR165/166 は標的遺伝子(HD-ZIPIII)のmRNA を分解する。HD-ZIPIII は、葉の組織細胞が向軸側の性質になるためのスイッチを入れる機能を持つ。

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