第10回論文紹介(2007.10更新)
- グループ名
- 形態統御学講座 植物発生学
- 著者
- 寺倉伸治、上野宜久、田上英明、北倉佐恵子、町田千代子、我彦弘悦、饗場弘二、Leon Otten、塚越啓央(Hironaka)、中村研三、町田泰則
- タイトル(英)
- An oncoprotein from the plant pathogen Agrobacterium has histone-chaperone-like activity.
- タイトル(日)
- 植物病原細菌であるアグロバクテリウムが保有するオンコ遺伝子はヒストン・シャペロン様の活性を持つ
- 発表された専門誌
- The Plant Cell September 21, published on line (2007)
アグロバクテリウムは植物に感染し、瘤状の腫瘍を形成する。この腫瘍は、アグロバクテリウムにある一群の遺伝子が植物細胞に転移し、染色体に組み込まれ発現することにより形成される。6b遺伝子はこれらの遺伝子の一つであるが、その分子機能は不明であった。この遺伝子を単独でタバコ細胞に導入して、in vitro で培養すると、導入細胞は、増殖に必要な植物ホルモンを添加しなくても増殖する。また、この遺伝子を発現している形質転換植物は、種々の形態異常を示す(図1)。このように、6bは植物細胞の増殖過程などを刺激している。 私たちは、6b タンパク質の作用の仕組みを知れば、正常な細胞の増殖や分化の機構を知る助けになると考え、6b と結合するタバコのタンパク質を分離・同定 し、その機能を調べることにした。これまでに3つのタンパク質を同定し、その一つが今回報告するヒストンH3である。6b は、ヒストンH3 のヒストンホールド(ヒストンどうしの結合に必要な領域)に結合した。さらに、精製した6b タンパク質には、 in vitro でヒストンシャペロンの活性(図2)とヌクレオソーム形成の活性が検出された。既知のヒストンシャペロンは、クロマチンの構築状態を変化させることが知られているので、6b にも、同様の活性があり、細胞増殖や分化に関する遺伝子の発現に影響を与えると推察される。実際に、6b 形質転換植物では、複数のオーキシン誘導遺伝子の転写レベルが低下していた。このような結果は、クロマチンの構造変化の制御が、細胞の増殖や分化にとって重要であることを示す。
図1:
6b 遺伝子を発現している形質転換植物の形態
A, 形質転換タバコ、a, c, ベクターコントロール;b, d, c, 6b 形質転換体.葉の背軸側からの突起や葉柄の異常伸長、葉身の発達阻害、子葉と葉の上方湾曲な どが見られる。B, 形質転換シロイヌナズナ、b, d, 非形質転換体;a, c, 6b 形質転 換体. 子葉と葉の上方湾曲や鋸歯が見られる。
図2:
6b タンパク質には、コアヒストン存在下で、リラックスした二重鎖閉環状 DNA をスーパーコイルに変換する活性(ヒストンシャペロン活性)がある
二重鎖閉環状プラスミドDNA に、コアヒストン(H2A, H2B, H3, H4) とトポイソメラーゼIの存在下で、種々の濃度の 6b タンパク質又はヒトのヒストンシャペロン hNAP-1 加えて反応させ、アガロース電気泳動によりプラスミドDNA の形を調べた。R と S は、それぞれリラックス型の二重鎖閉環状プラスミドDNA とスーパーコイル型の DNA の位置を示す。6b は、プラスミド DNA をスーパー コイルにしたことがわかる。

今後の予定