第14回論文紹介(2009.10更新)
- グループ名
- 脳機能構築学
- 著者
- 亀井 保博、鈴木 基史、渡邊 健二郎、藤森 一浩、川﨑 隆史、出口 友則、米田 悦啓、藤堂 剛、高木 新、船津 高志、弓場 俊輔
- タイトル(英)
- Infrared laser-mediated gene induction in targeted single cells in vivo.
- タイトル(日)
- 赤外レーザーによる生体内単一標的細胞での遺伝子発現誘導
- 発表された専門誌
- Nature Methods 6(1), 79-81, 2009
ほとんどの生物は熱ショックに応答して熱ショック蛋白質を発現する。熱ショック蛋白質遺伝子の発現調節配列に解析したい遺伝子をつないだ形質転換生物中では、細胞を加熱することで解析したい遺伝子の発現を誘導することができる。しかし加熱し過ぎると細胞は死んでしまうため、狙った細胞だけで遺伝子を発現させるためには、その細胞だけを熱ショック応答させる温度範囲に加熱する技術が必要である。これまで、可視光レーザー照射を用いて単一標的細胞の加熱が試みられてきたが、細胞への傷害性が高く遺伝子誘導の効率も極めて低いことから、この方法は実用的ではなかった。 本研究では、顕微鏡下で赤外線レーザー照射によって単一の細胞を加熱して熱ショック応答を引き起こし、単一細胞内で遺伝子発現を誘導する装置(IR-LEGO顕微鏡)を新たに開発した。 そして、線虫C. elegans を材料にして、IR-LEGO顕微鏡を用いて細胞に傷害を与えず、再現性高く効率よく遺伝子発現が誘導できる条件を決定した。さらに、実際に線虫生体内で機能遺伝子を発現させることにより、狙った個々の細胞に絞って表現型を操作できることを実証した。 本技術は多細胞生物の生体内で遺伝子機能を解析する手法として、また、生体内での細胞の挙動を単一細胞レベルで操作する方法として、今後さまざまな生物種に応用されることが期待される。
図1:
IR-LEGOを用いた生体内細胞操作の例。
C. elegans幼虫の遠位端細胞(DTC)と呼ばれる細胞(赤丸)は体の中を移動しながら生殖器官を作り上げる。 DTCの移動方向は別の細胞で発現する細胞誘導に関わる遺伝子(unc-6)によって制御されており、unc-6変異体ではDTCの移動が異常となるため、正常な生殖器官が形成されない。 変異体の中で、本来unc-6を発現するはずの細胞に赤外レーザーを照射してunc-6を発現させると、DTCは高い確率で正しい方向に移動して正常な生殖器官を形成した。

今後の予定