第19回論文紹介(2012.6更新)
- グループ名
- 構造生物学研究センター
- 著者
- 武田光広、寺内勉、甲斐荘正恒
- タイトル(英)
- Conformational analysis by quantitative NOE measurements of the β-proton pairs across individual disulfide bonds in proteins
- タイトル(日)
- ジスルフィド結合を経由するベータ水素間の定量的NOEによる立体配座解析
- 発表された専門誌
- J. Biomol. NMR (2012) 52. 127-139
タンパク質に含まれるジスルフィド結合は、χ2(i ), χ3, χ2 (j )の3つの2面角によりその立体配座が変化する(図1)。同結合の立体配座変換と機能制御との関連が示唆されている蛋白質の報告もあり、ジスルフィド結合の立体配座解析や配座変換速度等の研究手法の確立は重要であろう。しかしながら、これまではジスルフィド結合の形成架橋位置すらも迅速に決めるNMR手法が確立していなかった。
本論文はシステイン残基のβ-プロトン間のNOE に基づきジスルフィド結合の立体配座を決定する新規NMR解析法について述べたものである。この手法ではSAIL(立体整列同位体標識)技術を利用して合成した、pro -R, pro -Sのいずれかがモノ重水素化されたシステインを等量の割合で目的蛋白質に取り込ませNOESY測定を行う。この結果、従来の均一標識タンパク質において定量的NOE観測の障害となっていたシグナル縮重やgem -プロトン間を経由するスピン拡散過程を取り除くことが可能となり、理論上観測可能な4組のβプロトン間NOE(Hβs(i )-Hβs(j ), Hβs(i )-Hβr(j ), Hβr(i )-Hβs(j ), Hβr(i )-Hβr(j ))の全てを同一条件で観測出来る(図2)。これら4組みのβプロトン対のNOE距離情報に基き、タンパク質に含まれるジスルフィド結合の架橋位置と立体配座を正確に決定できることを実証した。本手法により、ジスルフィド結合の配座変換と生物機能の関連等、新たな研究の発展が期待される。
図1:
ジスルフィド結合の立体配座
(χ2(i ), χ3, χ2 (j )の3つの2面角により立体配座が変化する。
図2:
βプロトンの pro -R, pro -Sがモノ重水素化されたシステインを同時に目的蛋白質に取り込ませることにより、gem -水素間を経由するスピン拡散過程を取り除くことにより、ジスルフィド結合を挟む4種類のβプロトン間NOEを定量性を保ちつつ観測出来る。

今後の予定