論文紹介

第19回論文紹介(2012.6更新)

グループ名
生体構築論講座 分子神経生物学
著者
西尾 奈々、毛利-塩見 亮子、西田 征央、平松 尚也、児玉-南波 英志、木村 幸太郎、久原 篤、森 郁恵
タイトル(英)
A novel and conserved protein AHO-3 is required for thermotactic plasticity associated with feeding states in Caenorhabditis elegans.
タイトル(日)
線虫Caenorhabditis elegansにおいて、保存された新規タンパク質AHO-3は餌条件に依存する温度走性可塑性に必要である
発表された専門誌
Genes to Cells ・ 17(5) ・ 365-86 ・ 2012

動物の記憶・学習行動を担っている神経系では何千もの遺伝子が発現しているが、それらの機能については多くが謎のままである。本研究では、全遺伝子の約半分がヒトと共通であり、遺伝学的解析に適したモデル動物である線虫を用いて、学習行動に関わる新規因子を同定し詳細な解析を行った。線虫は、餌がある環境で一定温度で飼育されるとその温度を記憶し、その後、餌のない温度勾配上に移されると過去の飼育温度へと移動する。一方、餌がない環境で飼育すると、その後線虫は温度勾配上で分散し、飼育温度への走性を示さなくなる。スクリーニングにより単離された、この学習行動に異常を示す変異体の一つaho-3 変異体の原因遺伝子は、動物種で幅広く保存された新規の加水分解酵素をコードしていた。様々なプロモーターや改変型遺伝子を用いた表現型回復実験の結果、AHO-3タンパクは温度受容ニューロンAWCで機能すること、また、感覚受容器で機能する可能性が高いことが明らかとなった。さらに、既知因子との遺伝学的相互作用を調べたところ、AHO-3は、温度情報伝達に関与するレセプター活性化型Gタンパク質ODR-3と、同一の経路で機能することが示唆された。Gタンパクシグナル伝達系は広く感覚受容・神経可塑性に関与していることから、幅広い動物種で保存されている新規の加水分解酵素AHO-3の発見は、神経系の理解に重要な意味を持つものと期待される。

図1:

新規加水分解酵素AHO-3の機能細胞および相互作用因子
(A)温度走性を司る神経回路。AHO-3は温度受容ニューロンAWCで機能することが示唆された。(B)AHO-3はN末側のシステイン配列により感覚受容器に局在し、同じく感覚受容器に局在するGタンパク質ODR-3と相互作用することで学習行動に機能していることが示唆された。

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