第19回論文紹介(2012.6更新)
- グループ名
- 生体構築論講座 分子神経生物学
- 著者
- 木全 翼、谷澤 欣則、喜屋武 洋子、池田 慎吾、久原 篤、森 郁恵
- タイトル(英)
- Synaptic Polarity Depends on Phosphatidylinositol Signaling Regulated by Myo-inositol Monophosphatase in Caenorhabditis elegans.
- タイトル(日)
- Myo-inositol monophosphataseに制御されたphosphatidylinositol signalingは線虫中枢神経のシナプス極性に必須である
- 発表された専門誌
- Genetics (Epub ahead of print)
神経細胞の多くは、樹状突起でシナプス入力を受け、軸索からシナプス出力をするという極性を持っている。線虫のRIAニューロンは、1本の神経突起内でシナプスの入力部位(ポストシナプス)と出力部位(プレシナプス)が分かれている(図A)。これまでに、イノシトール産生酵素myo-inositol monophosphatase (IMPase)の線虫ホモログTTX-7を欠失する変異体では、RIAのシナプス極性が異常になる事が示されていた(図B)。さらに、このRIAのシナプス異常は、温度に対する走性行動に異常を引き起こす事が示された。しかし、IMPase/TTX-7がいかにしてシナプスの極性を制御しているかは明らかにされていなかった。本研究では、phospholipase Cβ (PLCβ)の線虫ホモログEGL-8、及び、synaptojaninの線虫ホモログUNC-26の機能欠失変異が、TTX-7欠失変異体の異常を抑圧することを見いだした(図B)。EGL-8、及び、UNC-26はともにphosphatidylinositol 4,5-biphosphate (PIP2)を代謝する酵素であることから、これらの酵素活性が失われ、PIP2が蓄積することが、TTX-7欠失変異体の異常を抑圧することにつながったと考えられる。これらのことから、IMPaseはPIP2量をコントロールすることで、シナプス極性を維持していると考えられる。これまでに、躁うつ病の治療薬であるリチウムは、生体内でIMPaseを阻害することでPIP2を介したシグナル伝達を減衰させるという仮説が提唱されており、本研究の結果はIMPaseの機能阻害が生体内でのPIP2量に影響を与えることを初めて生体内で示したという意味でも重要である。
図1:
図: RIAニューロンの模式図と、プレシナプスタンパクの局在
(A)RIAニューロンの模式図。1本の神経突起内でプレシナプス、ポストシナプスの存在領域が分かれている。 (B)RIAにおける、プレシナプスタンパクSNB-1と蛍光タンパクVENUSの融合タンパクの局在。野生株(WT)ではプレシナプス領域でのみで蛍光が観察されるのに対して、ttx-7変異体では神経突起全体で蛍光が観察された。egl-8変異、unc-26変異はttx-7変異体の異常を抑圧した。図は論文より改変。

今後の予定