論文紹介

第19回論文紹介(2012.6更新)

グループ名
形態統御学講座 脳機能構築学グループ
著者
竹内 勇一、堀 道雄、小田 洋一
タイトル(英)
Lateralized Kinematics of Predation Behavior in a Lake Tanganyika Scale-Eating Cichlid Fish
タイトル(日)
タンガニイカ湖産鱗食魚の捕食行動における運動能 力の左右差
発表された専門誌
PLoS ONE 7, e29272 (2012).

アフリカ・タンガニイカ湖には、泳ぐ魚の鱗を剥いで食べるシクリッド科魚類(Perissodus microlepis)が生息している。右顎が発達し口が左に開く「右利き」個体は獲物の右体側の鱗を、左顎が発達した「左利き」個体は左体側の鱗を剥ぐことが野外研究で示され、左右性行動の典型として注目されていたが、捕食行動の詳細は不明だった。そこで、本種を現地から輸送し、水槽内でその捕食行動を高速度カメラ(毎秒500コマ)で撮影して運動解析を行い、左右性行動の成分とその運動力学を調べた。典型的な捕食行動は、①接近、②回り込み、③構え、④胴の屈曲、⑤捻り、の5過程で構成されていた。鱗食魚は襲撃方向に著しい偏りを示し、よく好む屈曲方向(利き側)は開口方向と合致していた。また、利き側の襲撃の方が、その逆側の襲撃よりも、胴を約1.7倍素早く、約1.5倍大きく屈曲させ、利き側の捕食成功率は約3倍高かった。すなわち、利き側の運動を速くすることで、効率的な鱗食行動が達成されたと考えられる。また、その素早い胴の屈曲動作は、後脳のマウスナー細胞で駆動される逃避の屈曲動作と酷似していることから、共通回路が用いられていることが推定された。

今回、鱗食魚の捕食行動には運動能力に明確な左右差があることを実証した。今後、行動の左右性を司る神経機構を特定することができれば、右利きと左利きの脳神経系における違いだけでなく、脳の左右性の構築原理を解明する基礎的知見が得られると期待される。

図1:

図2:

カレンダー

今後の予定


pagetop