論文紹介

第19回論文紹介(2012.6更新)

グループ名
形態統御学講座 脳機能構築学グループ
著者
小橋 常彦、中田 奈津代、小田 洋一
タイトル(英)
Effective Sensory Modality Activating an Escape Triggering Neuron Switches during Early Development in Zebrafish
タイトル(日)
逃避運動のトリガー・ニューロンを活動させる感覚入力が、ゼブラフィッシュの初期発達中に切り替わる
発表された専門誌
The Journal of Neuroscience, 32(17): 5810-5820, 2012

発達初期の脊椎動物は、はじめは触覚、やがて視覚や聴覚というように、徐々に新しい感覚を手に入れる。私達は、新しい感覚が獲得される脳回路メカニズムを、ゼブラフィッシュの逃避運動回路の発達に注目して調べた。

孵化直後(2日齢)のゼブラフィッシュは触れられるまで逃げないが、3日から4日齢の間に音刺激でも逃げるようになる(図1)。この発達過程は、延髄に左右一対ある巨大ニューロンで、逃避運動を駆動するマウスナー(M)細胞の回路発達で説明できると考えた。触覚と聴覚およびM細胞の逃避運動への寄与の発達を、それぞれの破壊実験や、逃避運動中のM細胞活動の光学計測によって調べた。すると、M細胞は3日齢以前では触覚入力で活動して逃避運動を開始するが、3日から4日齢の間に触覚入力には応答しなくなり、かわりに聴覚入力で活動しはじめることを見出した。M細胞が開始するM型逃避の他に、触覚性でM細胞を介さない非M型逃避も発達を通じて見られたことから、「元は触覚性逃避回路の一部であるM細胞が、後から発達してきた聴覚入力用に“切り替わる”ことで、聴覚性逃避が獲得される」と結論した(図2)。

M細胞は脊椎動物の系統間でよく保存された網様体脊髄路ニューロンの1つであり、逃避回路の構成は種間で非常によく似ている。今回見出した「感覚入力の切り替え」は、発達中の動物がさまざまな感覚を獲得する共通メカニズムと期待される。

図1:

ゼブラフィッシュの逃避運動の発達過程
ゼブラフィッシュは、触刺激からは孵化直後以降ずっと逃げることができるが(青)、音刺激に対する逃避運動は受精後3日から4日の間に獲得される。

図2:

逃避運動回路の発達モデル
孵化直後は触覚入力でM細胞に開始されるM型逃避と、M細胞が活動せず他の細胞(非M細胞)によって開始される非M型逃避の両方が起こる。その後、M細胞の触覚入力への感度は細胞体の巨大化に伴って低下するが、一方で聴覚入力が増大し続ける結果、M細胞を活動させる感覚入力が触覚から聴覚へと切り替わる。

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