論文紹介

第19回論文紹介(2012.6更新)

グループ名
生殖分子情報学、ERATO 東山プロジェクト
著者
笠原 竜四郎、丸山 大輔、浜村 有希、榊原 卓、Twell David、東山 哲也
タイトル(英)
Fertilization Recovery after Defective Sperm Cell Release in Arabidopsis
タイトル(日)
シロイヌナズナにおける受精能を欠く精細胞放出後の受精回復システム
発表された専門誌
Current Biology 22, 5/17 online, 2012

雌しべに複数の花粉が受粉すると、複数の花粉管が一斉に伸長するが、胚のうには1本の花粉管だけが到達して受精する。数億の精子を動員する動物の受精とは異なり、植物では1本の花粉管、いわばたった1人の相手に受精を託すと考えられてきた。

笠原らは、シロイヌナズナの生殖不全突然変異体を調べている時に、不思議なことに期待値よりも多くの種子が作られることに注目した。観察の結果、これまでは稀であると考えられていた胚珠に2本の花粉管が到達する現象が、高頻度(約40%)で起こっていることを見出した。さらに1本目の花粉管が受精に失敗した場合に胚のうが2本目の花粉管、いわば2人目の相手を呼び寄せ、受精を回復することを突き止めた。

多くの植物で助細胞が2つあり花粉管を誘引する。花粉管が到達すると助細胞の1つが崩壊するが、これまで植物に助細胞が2つある理由は見出されていなかった。今回1本目の花粉管が受精に失敗した時に、2つ目の助細胞がバックアップ機能を果たし、受精を回復することも明らかにした。

植物の雌しべが持つ、このような基本メカニズムがこれまで発見されなかったことには驚嘆を禁じ得ない。オオムギやエンドウなど多くの植物で1つの胚のうに花粉管が2本到達する例が確認されている。つまり、稀なこととして注目されなかった現象が植物生殖の重要な仕組みを意味していたのである。今後、農作物の収穫量増大に大いに貢献できる結果である。

図1:

受精回復システム。花粉管 (1本目)が受精に成功すると種子形成するが、失敗すると2nd chanceとして2本目の花粉管を呼ぶ。成功するとそのまま種子形成する。変異体で種子が理論値よりも増加していたのはこのためであった。また失敗すると2本の花粉管により2つの助細胞が潰され、3本目を呼ぶことが出来ないので、3rd chanceはなく、この胚珠は種子形成が出来ない。

図1:

2本の花粉管を受け入れている胚珠の電子顕微鏡写真。日本電子(株)及び鈴木俊哉博士(名大農学部)の協力で撮影に成功。

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