論文紹介

第19回論文紹介(2012.6更新)

グループ名
特任教授グループ(発生・メカノ・セルバイオロジー:植物)
著者
笹部 美知子、Véronique Boudolf, Lieven De Veylder, Dirk Inzé, Pascal Genschikd、町田 泰則
タイトル(英)
Phosphorylation of a mitotic kinesin-like protein and a MAPKKK by cyclin-dependent kinases (CDKs) is involved in the transition to cytokinesis in plants
タイトル(日)
サイクリン依存性キナーゼによるキネシン様タンパク質とMAPKKKのリン酸化は植物における細胞質分裂への移行に関わっている
発表された専門誌
Proc Natl Acad Sci USA 108:17844-17849 (2011)

細胞質分裂は、複製された核ゲノムと細胞質を正確に二つの娘細胞に分配するための、細胞分裂最後の重要なイベントである。植物の細胞質分裂では、細胞板と呼ばれる隔壁形成により細胞が二分されるが、細胞板形成は微小管を主成分とするフラグモプラストと呼ばれる細胞質分裂装置の中で起こる。我々はこれまでに、図1 の右半分に示すように、タバコとシロイヌナズナを用いて、キネシン様タンパク質 NACK1 とMAPKカスケードから成るNACK-PQR経路が、植物の細胞板形成の中心的な正の制御系であることを明らかにしてきた。この経路は細胞質分裂時に特異的に活性化され、フラグモプラスト微小管の動的不安定性を引き起こし、フラグモプラストの親細胞壁への拡大伸長を誘導する。この経路は、NACK1とMAPKカスケードの最初のリン酸化酵素であるNPK1 MAPKKKが直接結合により、細胞質分裂時に活性化される。しかし、この活性化を制御する仕組みは未解明であった。

本研究では、NACK-PQR経路の活性化に、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)が関与していることを見いだした。細胞板形成は染色体の分離が起こるM 期の後期以降に開始されるが、NPK1と活性化因子NACK1両タンパク質は、M期の中期以前から存在している。しかし、図1に示すように、両者は、中期までは CDK によりリン酸化されており、互いに結合できないこと、中期を過ぎると、NPK1とNACK1は脱リン酸化され、複合体を形成し、NPK1 が活性化することが判明した。このように、CDKは、M期中期までは細胞板形成に対して、ブレーキ役を演じていることがわかった。

図1:

細胞周期中期以前におけるCDKによる細胞質分裂の抑制的制御モデル

CDKはM期中期までNPK1とNACK1をリン酸化し、両タンパク質の結合を阻害している。その後、CDK活性の急激な低下と、未同定のフォスファターゼの働きにより両タンパク質は脱リン酸化され、相互に結合し、NPK1 MAPKKK を活性化する。その後、NACK-PQR経路全体が活性化され、さらに微小管結合タンパク質MAP65 などがリン酸化され、最終的に細胞板形成が誘導される。今後の課題はフォスファターゼの同定である。

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