第31回論文紹介(2018.6更新)
- グループ名
- 生殖生物学グループ
- 著者
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西村 俊哉、山田 一輝、藤森 千加、菊地 真理子、河﨑 敏広、Kellee R. Siegfried、酒井 則良、田中 実
- タイトル(英)
- Germ cells in the teleost fish medaka have an inherent feminizing effect
- タイトル(日)
- メダカの生殖細胞は身体をメスにしようとする特質を元々持っている
- 発表された専門誌
- PLoS Genetics 14(3): e1007259, (2018)
生殖細胞は精子と卵(配偶子)の元となる細胞であり、子孫を作るためには必須の細胞である。一般的に配偶子を作り出すことが生殖細胞の唯一の役割と考えられてきた。我々はメダカを用いた研究で、生殖細胞は、配偶子を作り出すだけでなく、身体をメスにしようとする特質があり、その特質がないと身体がメスになれないことを見出していた。本研究でさらに解析を進めた結果、興味深いことにその特質は、生殖細胞が卵に、つまり生殖細胞がメスになってから獲得するわけではなく、性的に未分化な(精子にも卵にも分化できる能力を保持した)生殖細胞においても、身体をメスにする能力があることが明らかとなった(図1)。我々は以前の研究で、生殖細胞が「精子になるか、卵になるか」を決める遺伝子を同定した。この遺伝子の機能をメスメダカで破壊すると、卵の代わりに生殖細胞は精子を作り始める。それにも関わらず、生殖腺は卵巣となり、身体はメスになることを見出した。この結果と考え合わせると、生殖細胞は卵になろうが精子になろうが、身体をメスにしようとする能力を保持しており、これは生殖細胞が元々持っている特質であることが明らかとなった。
図1:生殖細胞は身体をメスにしようとする特質を元々持っている
(A)野生型の卵巣。卵巣内の大部分は卵で占められており、成熟した卵は卵巣腔(*)に排卵される。卵巣腔は卵巣に特徴的な構造である。黒矢頭が示す細胞は性的に未分化な生殖細胞であり、卵巣においてはこの細胞が分化すると卵になる。
(B)卵を全く持たない変異体の卵巣。この変異体(meioC遺伝子の機能欠損)では、性的に未分化な生殖細胞(黒矢頭)からの分化が進行せず、卵を作ることができない。それにも関わらず、生殖腺は卵巣腔(*)を持つことから構造的に卵巣であり、さらに、丸みを帯びた尻びれと背びれ(下段)を持つことから身体の二次性徴はメスである。

今後の予定