第40回論文紹介(2022.10更新)
- グループ名
- 分子修飾制御学グループ
- 著者
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小原 圭介、吉川 拓、山口 竜、桑田 啓子、中務 邦雄、西村 浩平、嘉村 巧
- タイトル(英)
- Proteolysis of adaptor protein Mmr1 during budding is necessary for mitochondrial homeostasis in Saccharomyces cerevisiae.
- タイトル(日)
- アダプタータンパク質Mmr1の積極的な分解は酵母のミトコンドリア恒常性の維持に必須である
- 発表された専門誌
- Nature Communications・13・2005・2022
ミトコンドリアは、エネルギーの産出や脂質代謝を行う重要な細胞内小器官であり、新しい細胞が生まれる際にはきちんと分配される必要がある。酵母では、ミトコンドリアはアクチンケーブル(線路に相当)の上をモータータンパク質ミオシン(貨物車に相当)によって新しい細胞(娘細胞;目的地)に運ばれて分配される。積み荷であるミトコンドリアは、Mmr1というタンパク質(留め具に相当)を介してミオシンと結合する。娘細胞に運搬されたミトコンドリアは、ミオシンから解離して(荷降ろしされて)、娘細胞内を動き回る。このミトコンドリアの荷降ろしの仕組みやその重要性は分かっていなかった。本研究では、留め具タンパク質Mmr1が積極的に分解されることによってミトコンドリアが荷降ろしされることを発見し、その詳細やミトコンドリアが娘細胞に到達する前に荷降ろしされるのを防ぐ仕組みを解明した。また、この荷降ろしが滞るとミトコンドリアが変形して堆積し、好気呼吸の異常亢進や有害な活性酸素の増産が引き起こされ、細胞が活性酸素に対して脆弱になることも明らかにした。本研究の意義は、(1) 積み荷の荷降ろしに、留め具タンパク質の分解が必要であることを明確に示したこと、および (2) 目的地での積み荷の荷降ろしが非常に大事であることを示した点にある。
図:
ミトコンドリア(積み荷に相当)が目的地である娘細胞の先端に近付くに連れて、ミトコンドリアとミオシン(貨物車に相当)を繋いでいるMmr1(留め具に相当)がリン酸化を受ける。リン酸化されたMmr1は、ユビキチン化されてプロテアソームによって分解される。こうして、ミトコンドリはミオシンから解離して娘細胞内をダイナミックに動き回る。Mmr1の分解が滞り、この荷降ろしが正常に進行しないと、ミトコンドリアは異常な形に変形して堆積してしまい、呼吸活性の異常亢進や有害な活性酸素の増産を起こしてしまう。これにより、細胞は酸化ストレスに脆弱になる。なお、Mmr1のリン酸化を行うリン酸化酵素は娘細胞に局在し、母細胞にはほとんど存在しない。このリン酸化酵素の特異的な分布によって、ミトコンドリアが娘細胞に運ばれる前にMmr1が分解されてしまうことを防いでいる。

今後の予定