論文紹介

第40回論文紹介(2022.10更新)

グループ名
微生物運動グループ
著者

本間 道夫、竹川 宜宏、藤原 和志、郝 雨希、尾上 靖宏、小嶋 誠司

タイトル(英)
Formation of multiple flagella caused by a mutation of the flagellar rotor protein FliM in Vibrio alginolyticus
タイトル(日)
海洋性ビブリオ菌のべん毛モーター回転子タンパク質FliMの変異による多べん毛形成
発表された専門誌
Genes to Cells (2022) 27: 568-578.

海洋性細菌ビブリオ(Vibrio alginolyticus)は、細胞の極に1本のべん毛を形成する。ビブリオ菌では、GTPaseであるFlhFとATPaseであるFlhGの2種類のタンパク質がべん毛の数を調節する。flhFflhG遺伝子に変異がないにもかかわらず、複数のべん毛を形成するNMB155変異体を以前に分離していた。何が原因で多べん毛になったのか分からなかった。しかし、NMB155株の全ゲノム配列決定により、べん毛回転子のパーツであるC リングの構成タンパク質FliMにおいて、N末端の9番目のグルタミン酸がリジンへ変異(E9K)していることを特定した。これまでにFliMに起こる多くの変異が同定されており、べん毛形成 (fla) あるいは、べん毛回転 (che またはmot) に欠陥をもたらすことがわかっていた。本研究において、E9​​K変異が多べん毛表現型と che表現型を付与することを明らかにした。野生型FliM と FliM-E9Kを菌体で同時に発現してみると、べん毛数の決定に関して競合的であることが判明した。FlhGのATPase活性が、べん毛の数と相関していることが示されている。精製したタンパク質を用いたin vitro実験で、FlhGのATPase活性は、FliMの添加によって増加したが、FliM-E9Kの添加によって増加しなかった。これは、FliM がFlhGと相互作用してそのATPase活性を上昇させ、べん毛本数を負に制御しているが、E9K変異がこの制御機構を阻害している可能性を示している。FliMは、べん毛のモーター機能に重要な働きをしているが、FlhGのATPase活性を制御して、細胞の極でのべん毛本数を適切に調節する働きも持っていると考えられる。

図1:

(A) 野生株 (VIO5) (左パネル) と多べん毛変異株 (NMB155) (右パネル) の電子顕微鏡写真。 スケールバーは0.5 μm。 (B) NMB155の変異部位。 野生型(VIO5)および変異体NMB155のfliM遺伝子のヌクレオチド配列およびそれらのコードするアミノ酸配列を示した。

図2:

V. alginolyticusの極べん毛モーターの模式図と変異部位。 (A) fliM遺伝子と周辺のべん毛遺伝子。 (B) べん毛モーターの垂直断面画像。 C リングは FliG、FliM、FliN で構成され、MS リングは FliF で構成される。固定子は PomA と PomB で構成される。本論文で見つかった変異をもつタンパク質FliMは赤で示す。

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