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464-8602 名古屋市千種区不老町
名古屋大学大学院理学研究科
生命理学専攻脳機能構築学研究室
 
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脳機能の獲得
(小田洋一・谷本昌志)
セマフォリン・プレキシン系の情報伝達機構
(高木新)
アフリカ・タンガニイカ湖産のシクリッドにおける左右性行動の神経基盤
(竹内勇一・小田洋一)
分子のふるまいから読み解く脳の仕組み
(坂内博子)
 
 
 
アフリカ・タンガニイカ湖産のシクリッドにおける左右性行動の神経基盤
 
メインテーマ
動物の左右非対称性を明らかにしたい
現在進行中のテーマ
アフリカ・タンガニイカ湖産のシクリッドにおける左右性行動の神経基盤
研究のねらい
 利き手はといえば右手(左利きは全体のうち10%)、心臓は体の左側、言語野は左脳など、身の回りには様々な左右非対称性があります。このような左右非対称性は、ヒト以外の動物にも見られる一般的な現象ですが、生態学的な意味やその仕組みはよく分かっていません。
 私は魚類の捕食および逃避行動で発揮される利きに着目し、左右に偏った行動が生態的にどのような機能を果たしているのかを明らかにするために、アフリカでの野外調査や行動実験を行って、その謎にとり組んできました。
 下記にまとめましたように、一般的に魚類は左右非対称な行動を個体ごとに示し、それらは適応度(生存可能性および繁殖成功)を高める役割をもつことが明らかとなってきました。一方で、行動の左右性を発揮するための体内メカニズムは、ほとんど理解が進んでいません。脳機能構築学研究室では、左右非対称な行動を駆動する神経基盤を明らかにすることを目的として、神経行動学的・生理学的なアプローチから研究を展開しています。
Research 
研究テーマ
4. タンガニイカ湖の鱗食魚における捕食行動の左右性
3. タンガニイカ湖沿岸魚類群衆の特徴と過去20年間で起こった変化
2. 魚類の社会行動と左右性
1. タンガニイカ湖産エビ食シクリッド魚類における左右性の動態
4. タンガニイカ湖の鱗食魚における捕食行動の左右性
  動き回る被食者を捕食するには、それらが逃げる前に捕らえるといった、対象に応じた一連の俊敏な動作が必要とされる。タンガニイカ湖には、泳ぐ魚の鱗をはいで食べる鱗食魚がいるが、その行動はあまりに俊敏すぎて、その詳細は不明であった。
 我々は鱗食魚の捕食行動の運動成分、左右性を解明するため、水槽内で捕食行動を高速度ビデオカメラで撮影し、運動解析を行った。典型的な捕食行動は、@被食魚後方への接近、A側方への回り込み、BS字状の構え、C左か右への胴の屈曲を伴う噛みつき、D垂直方向への体の捻り、の5過程で構成されていた。鱗食魚は被食魚にむかって体を屈曲させて噛みつく方向に著しい偏りを示し、そのよく好む屈曲方向(利き側)は口の開く方向と合致していた。また利き側の方が、その逆の襲撃より胴を素早く大きく屈曲させることで、捕食成功率が極めて高いことが分かった。その素早い屈曲運動は、後脳のマウスナー細胞(M)細胞で駆動される逃避行動の屈曲運動と酷似していることから、共通の神経回路が用いられていると示唆された。
鱗食魚(右利き)の捕食行動を捉えた連続写真(48ミリ秒ごと)。

<掲載誌>
 PLoS ONE (2012) 7: e29272
<メディアでの紹介>
 47News [動画ニュース] 鱗食魚による捕食シーンを見られます
 MSN産経ニュース[リンク]
 日刊工業新聞 [リンク]
 マイナビニュース

中日新聞、日本経済新聞、福井新聞、愛媛新聞、岐阜新聞、 産経新聞、千葉日報、秋田魁新報、西日本新聞、四国新聞、 沖縄タイムス、日刊工業新聞

3. タンガニイカ湖沿岸魚類群集の特徴と過去20年間で起こった変化 
 アフリカ・タンガニイカ湖では、300種近くの魚類が知られ、その多くは固有種である。温暖化や人為改変による生物多様性への影響が懸念されるなか、この魚類群集に変化は生じているのだろうか?湖南端の沿岸岩礁域において、1×1mメッシュの永久コドラート(10×40m)を湖底に設置し、その場所にいる魚種を潜水観察によって記録するモニタリング調査を20年間(1988-2008)行った。
 その結果、このコドラート内では年平均約2200匹の魚類が見られ、全体でシクリッド科魚類が54種とシクリッド科以外の魚種(ナマズなど)が6種記録された。種数と個体数の経年変化を検討してみると、大きな変化はなく、種の置き換わりもみられなかった。一方で、藻類食魚と無脊椎動物食魚の個体数は徐々に減り、デトリタス食魚が増加していることから、その群集構成は変化していると考えられた。その原因の一つには、河川からの土砂流入が関係しているのかもしれない。タンガニイカ湖の魚類群集は、今のところ高い多様性を保っているが、ゆっくりと少しずつ変化している。
図1
魚類センサスの様子。ローテクであるが、瞬時に種判別することのできる特殊能力を要する。
<掲載誌>
Ecology of Freshwater fish. (2010) 19: 239-248
2. 魚類の社会行動と左右性 

 様々な動物で、威嚇行動の起こりやすい方向(視野)があることが報告されている。それは、脳の機能分化との関係性が推察されている。闘魚を用いて、威嚇誇示行動の方向と形態的左右非対称性との関係を調べたところ、威嚇行動の偏りと頭骨の左右差は対応していた。これらは、脳の機能分化の個体差を調べる上で、形態分析が有効であること、魚類の様々な行動は形態的非対称性と対応していることを示唆している。

図2
闘魚(ベタ)のオスは、相手や鏡に映った自身の姿に対して、威嚇誇示行動を示す。どちらの体側を相手に魅せるかに、個体差がある。
<掲載誌>
Behavioural Brain Research. (2010) 208: 106-111
1. タンガニイカ湖産エビ食シクリッド魚類における左右性の動態 
 アフリカ・タンガニイカ湖では、300種近くの魚類が知られ、その多くは固有種である。温暖化や人為改変による生物多様性への影響が懸念されるなか、この魚類群集に変化は生じているのだろうか?湖南端の沿岸岩礁域において、1×1mメッシュの永久コドラート(10×40m)を湖底に設置し、その場所にいる魚種を潜水観察によって記録するモニタリング調査を20年間(1988-2008)行った。
 その結果、このコドラート内では年平均約2200匹の魚類が見られ、全体でシクリッド科魚類が54種とシクリッド科以外の魚種(ナマズなど)が6種記録された。種数と個体数の経年変化を検討してみると、大きな変化はなく、種の置き換わりもみられなかった。一方で、藻類食魚と無脊椎動物食魚の個体数は徐々に減り、デトリタス食魚が増加していることから、その群集構成は変化していると考えられた。その原因の一つには、河川からの土砂流入が関係しているのかもしれない。タンガニイカ湖の魚類群集は、今のところ高い多様性を保っているが、ゆっくりと少しずつ変化している。
1-1  タンガニイカ湖産エビ食魚における行動の左右非対称性

 行動の左右非対称性は様々な動物で報告されているが、その意味づけは定まっていない。この論文では、タンガニイカ湖産エビ食魚Neolamprologus fasciatusの捕食行動について、行動の左右の偏りと形態の左右性との対応を報告する。この種はエビを狙っているときに、左右どちらかの体側を岩に沿わせるという、左右非対称な捕食行動を示す。

 全観察個体の行動の偏りの比率は二山型の頻度分布を示し、約1/3個体には有意な左右の偏りがあった。また、この行動の偏りはその個体の顎形態の左右性と対応していた(左利きは右狙い捕食行動、右利きは左狙い捕食行動)。さらに、そのような各個体の左右性に対応した捕食行動をしたときは逆の時よりも、捕食成功率が高いことが示唆された。個体群中での左右2タイプの捕食行動は、頻度依存的に捕食効率に影響を及ぼしていると推察される。

1-2  ヌマエビ類における腹部の左右非対称性と行動の側方化

 脊椎動物の左右非対称性はよく調べられているが、それに対して無脊椎動物の報告は非常に少ない。この論文では、2種のヌマエビにおいて、形態の左右非対称性とその遺伝性、および逃避行動の左右差を調べた。

 その結果、腹部のねじれの角度の頻度分布は二山型となり、交配実験で腹部のねじれの方向は遺伝形質と分かった。また、逃避方向もこのねじれ方向と対応した二山型を示した。ヌマエビは、逃避行動に関係する遺伝的な左右二型を持っていて、それは水生動物群集での捕食被食関係に影響を及ぼすことが考えられる。

<掲載誌>
Zoological Science. (2008) 25: 355-363.

図3  
ミナミヌマエビの逃避行動の連続写真(左:刺激前、中:腹部を左にねじって屈曲、右:左後方へ逃避)。刺激を加えると、後方の左右どちらかへ逃げる。
Laboratory of Brain Function and Structure; Division of Particle and Astrophysical Science, Graduate School of Science of Nagoya University
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